目覚めの朝はとても清清しく、空は輝いてました。
窓を開けたら、鳥のさえずりが聞こえます。
風が優しく頬を撫でます。
このままピクニックに行くと大変素晴らしい日を送れるでしょう。
そう考えるとピクニックに行きたくて仕方ありません。
今から行こうかしら。
お弁当を持ってどこか知らない所へ。


…………行きたいなぁ。誰も知らない未知な世界へ。


現実逃避をしつつ、部屋に視線を戻したら立海の制服が私を待っていました。
って、場所本当に分からないんだってば!!!!


8.悪魔の使いに連れられて


「おい」
昨日いやってほど見た、忍足の顔が私を見つめる。
「おはよう。忍足」
「おはようさん。ってじゃなく、なんでさんがここにおるん?」
堂々と忍足を迎えに来ていた車に乗り込んでいる私を見て、心底驚いた顔をしてたな。忍足。
「だって…………」
「今日から立海の生徒になるんやろ? 何でこんなところにおるんや?」
「場所が分からないからさ。忍足に聞こうかなぁって思って待ち伏せしたんだけど。せっかくだから驚かせようかなと思って」
にやっと笑う私に忍足は「何するか分からん人や」とため息ついた。
失礼な人だな。
「場所ってなんで知らないんや?」
「だから、まったくここの地理理解してないんだって。昨日動いた範囲以外はまったく無知。
 昨日確認しようと思ったけど、忍足がいたから忘れてたんだもん」
「俺のせいか?」
「とにかく、教えてくれないかな?」
ベンツの中でふんぞり返って言う台詞ではないけど、わかってそうしたら忍足が再びため息をついた。
忍足に拒否られたら、もう絶対に学校遅刻だし、初っ端から欠席とかいう事態もありえる。
少々青くなった私に、忍足は胸ポケットから携帯をとりだしてどこかにかけだした。
誰にかけるのだろうか?
「ああ、もしもし跡部? 悪いな。ちょっと朝練遅れそうやねん。…………ああ、うん。後で説明するから。
 それからちょっとベンツ違うところに向かわせてもらうわ。ああ、うん。分かってるって。はいはい。ほなな」
ぱちんと勢いよく携帯を閉じる。
うわぁ〜。なんかまずいような予感がするのはなんだろうな。
たらりと嫌な予感に汗がたれる。
忍足は、私を更に押し入れて自分の身体をベンツに入れてきた。
「すみません。氷帝に向かう前に、立海に向かってもらっていいですか?」
うわぁ。忍足の標準語。
めったに聞けない標準語!
気持ち悪っ!!!
じゃないよ。いま立海に向かうって言った? 言ったよね?
空耳じゃないよね。
走りだしたベンツに私は慌てて忍足の制服をつかんだ。
「ちょっと待って。場所教えてもらうだけでいいのに、何で立海まで?」
「だって場所知らないんやし」
「いやいや、場所さえ教えてもらったら一人で行けるから」
「気が変わったから、送っていく」
「跡部の車だからさ、こういうのはよくないよ」
普通ならラッキーって思うよ。思う。
だけど転入初日だし、これベンツだよ。
悪目立ちするつもりはない。
そして予想外だ。
何この忍足の行動。


なんとか立海の近くでおろしてもらおうとあれやこれやと言ったりしたのだけれど。
忍足は頑として聞き入れてくれなかった。
何?
何の嫌がらせ?
ばばーんと、立海の正面門にベンツが横付けされました。
絶対に降りたくない。
ほら立海の生徒が興味深そうにこっち見てるよ。
ガン見してるよ!
スモークで中が見えないから今はいいけど、これ降りたらもう珍獣扱いだから!
上野動物園のパンダだから!
絶対に降りるの嫌だ!!!!
駄々こねて移動してもらおうとした時だった。
何を考えたのか、忍足がベンツから降りたのだ。
はぁ?
あんた氷帝の制服だよ。
それも有名な忍足侑士だよ。
ほら、立海の女子生徒がすでに頬を染めて黄色い声で叫んでるよ。
何々?
何を考えてんだよ!!!


忍足はやってくれました。
最大の嫌がらせだと思う。
それ以上に考え付かない。
忍足はにたりと笑顔を浮かべてました。
それはそれは満面の笑みで。
忍足の後ろに真っ黒い尻尾が見えても、本物だと思いそうな悪魔のような微笑。
優雅に私の降りるドアを開けたのだ。
まるでお姫様を守る騎士のように、優雅なしぐさでドアを開けて一礼した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!


ここで出てけってこと?
年齢詐称したおばちゃんが立海生に穴が開くほど見つめられるって状況を作れと?
お前は鬼か!!
だがもう後戻りはできなかった。
できるわけがない。
忍足にここまでさせてしまったのに、出て行けませんなん言えるわけがない。
この負けず嫌いは治したほうが絶対に幸せに暮らしていけると思うのに!

ええ、もうどうにでもなれ。
せめて、せめて 美人さんだったら!!!
せめてせめて、大人っぽかったら!!
しかし今更どうしようもない。
だってトリップしたけど、容姿変わってなかったもん。
容姿変更はお約束だよね。だよね。



悔しさと、腹立たしさをぐっと飲み込んで、せめて優雅に降りてやろうと覚悟を決めましたよ。
ええ、女は度胸だ。
伊達に29も年をとってないぜ!
足を一歩踏み出して、忍足の差し出した手に自分の手をのせてやりましたよ。
よくそんな芸当ができたと自分で自分を褒めてやりたいよ。
すごい数の視線がバンバン飛んできたけど、赤や青になるような顔色はしなかった。
というか、そんな余裕すらなかった。
無表情になるほど緊張してたんだよ!

「では、さん。立海で頑張ってな」
にっこり嫌味のような笑顔を浮かべる忍足。
「あら素敵なお見送り有難う。感謝してるわ」
こちらも負けずににっこり笑って返してやった。
こいつ。後で覚えてろ。
このまま負けるわけにはいかない。
力いっぱい地面に踏ん張って、ベンツを送ってやりましたさ。
ああ、送ってやったよこんちくしょー!!!
あの視線の中よく逃げ出さなかったな。自分。
まぁ、逃げる気力もなかったし、あのまま倒れないように地面踏ん張ってゆっくり歩くしかできなかったよ。
職員室に行けたのは、もうミラクルとしか言いようがない。


 正式年齢29歳。

今日から17歳として立海大高等学校に通います。

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☆コメント
久々こちらを書いたような気がします。
立海1日目とか思ってたけど、なんてことはない。
立海初日の初日。それも立海生が一人もでてない状態。
忍足ずっとでっぱなですよ!!すみません。
これ立海です。立海夢です。何が何でも立海です!
これ何話続くんだろうなぁ。遠い目…………。
次回はクラスに場面は変わります。
あの方とあの方と同じクラスになってもらいますよ!!
では本格的に立海生活がはじまります!!

2008.10.17