なんて言うか。
漫画の中の彼は、どこか飄々としていてつかみどころのない人だったような気がする。
同人誌という怪しい世界の中では、彼は七変化のようにころころ変わる。
主人公の救世主だったり、おたくだったり。
いじられキャラだったり。天才だったり。
氷帝のおかんだったり。
でもどれもこれも今の彼には当てはまらないかもしれない?
あれ?
いや、私の前にいる忍足ってどんな子なのかなぁ。
人の写真を勝手に撮って脅してみたり。
オムライス食べておいしいと言って、作り方聞いてきたり。
そういえば、トラブル回避してくれたな。
自分にメリットなんてないのに。
となると、忍足って実はとってもいいやつ…………じゃないか。
写真のことでマイナス。
誘導尋問でマイナス。
やっぱり第一印象は大事かもしれないね。
忍足は掴みどころのない人みたい。


8.真実っていうのは妙にうそ臭いのは何故だろう?


「ふ〜ん、つまり。さんは、いじめ問題をさぐるべく、立海に転入することになった。
 極秘扱いの転入生ってことなんかい?」
「ぴんぽーん!」
にっこり頷く私に、忍足はうそ臭そうな顔を向ける。
「顔がうそ臭い」
そして言葉もはっきりうそ臭いと告げた。
それも顔がって。
そりゃあ、あんまりじゃない?
「…………人がちゃんと話そうとしているのに端から嘘だと決め付けるなんて」
「ありえへん。ってかそれじゃつじつまが合わへんやん。俺のこと昔から知っているとか言ってたやろ?」
しまった。
そうか、そんなことも言ったな。
もうぼろがではじめた。
開始5分で。
だめだこりゃ。(あきらめの早い大人)


「じゃあさぁ〜、忍足は私が違う世界からきたとか言ったら信じる?」
「まったく」
間髪もいれずにきっぱり言い放った忍足。
「だよねぇ〜」
私だって絶対にまったく信じない。
大体本人が必死にそうだと言っても、どうやって信じたらいい?
証拠なんてものはまったくないのだから。
私が知っているテニプリ情報なんてみんなが知っている程度のもの。
マニアックな友人のように、誰が何が好きとか。
家族構成とかまったくもって覚えてない。
だってそんなの覚えても社会に何も役に立たないでしょう。
第一、そんな面倒なもの覚える気もないもん。
そんな不利な状況下、どうしようかなぁと半分あきらめ気味で面倒くさくなった私を見た忍足は、仕方ないとばかりに助け舟をだしてくれた。
あんたいい奴だったんだな。
「じゃあ、もういい。違う世界からきた宇宙人なら俺らの何を知ってるって言うんや?」
「違うよ。忍足。宇宙人じゃないんだからさ。こういう場合は、トリップって言うんだよ。異世界トリップね」
「さよか。異世界トリップな。で?」
こいつも面倒になったな。
「あんたが伊達眼鏡ってことと。足の綺麗な人が好きってことと。恋愛映画と恋愛小説が好きってことや〜〜。
 あれ?私意外と忍足のこと知ってるよ。ストーカーみたい?」
「ああ、立派なストーカーやな」
本人からも認められちゃいましたよ。
「これだけじゃ、異世界トリップなんて言えないしなぁ。困ったなぁ」
口だけ困った困ったを連発してみた。
もうどうでもよくなった。正直なところ。
ストーカーって不名誉な名前貰ってもいいや。これで忍足が気味悪がって近寄らなくなったらラッキーじゃない?
「だけどなぁ。異世界トリップって言ったって、何で自分が俺らのこと知ってるって話になるんや?」
「ああ、忍足とか私の世界では有名人だったもん。まぁ、一部?違うか全国的に有名人。
 まぁ、漫画でだけどね」
「漫画?」
「信じる信じないは勝手だけど。テニスの王子様っていう漫画が週刊誌に載っててね。
 青学の越前リョーマが全国優勝するまでを漫画にしたやつでね。つい最近私の世界では最終回を迎えたんだよね」
「それって壮大な話やな」
「うん。なんでこうもうそ臭いんだろうね」
本人に話せば話すだけ真実味がなくなるってどうよ?
もう駄目かもしれない。
駄目でいいから、忍足帰らないかなぁ。
「こういう時ってさ。大体自分の知らないことを第三者が知っている!ってこと言って。
 信じてもらうパターンが多いんだけどね。リョーマならともかく氷帝って言ったらなぁ」
あの跡部様でしょう。チャームポイントは泣きぼくろ。
滋郎ちゃんは可愛いよね。
岳人のあのアクロバットは凄すぎるよね。
結構好きなのは日吉なんだよねぇ。
そうそう、そういやあの話は本当なのかなぁ。
「ねぇ、ねぇ。忍足。聞きたいことあるんだけど」
「なんや?」
さすがにこうはっきり言うのははばかられたので、忍足の耳元でそっと聞いてみた。
「あのさ〜。…………って本当?」
「…………」
あれ?
聞いちゃいけなかった?
「なぁ。さん。俺らの中学時代の氷帝レギュラーの親戚とか友達とか恋人とかだった?」
「いや。まったく」
「俺ちょっとだけ信じてしまいそうになるんやけど。さん、トリップ説」
「何で? 急に?」
いままであれだけ不審げな目で見てたのにさ。
「その話、普通にストーカーしてても絶対に知りえない内容やから」
「…………へぇ? だって私の世界ではテニプリ知ってたら普通の話なんだけど?
 ん? ああ、そうか。つまりこういうことね。『越前!お前は青学の柱になれ!』って手塚が高架線の下で言った台詞って。
 私たちにはあまりにも有名な話だけど、ここの人たちは青学の柱になれって言われたのは知ってても、どこで言われたかは分からない。
 ってことだよね? 漫画では私たちは見ているけど、登場人物には知りえない内容だと。見る側と見られる側。
 つまり私と忍足のような関係?ってことかな」
私たちは忍足の生活を盗み見ているようなものなんだよね。
そりゃぁ、漫画だから普通なんだけど。
でも当事者にとっては、衝撃的な内容だったかも?
ほら、忍足が呆然としてるよ。
「本気か? その話眉唾物じゃなんよな? ありえへん。正直信じられへんような壮大な話」
「でもさ、そんなあまりにも恥ずかしいような話はないからね。プライバシーの侵害になるような恥ずかしい話はないし!
彼女ができて振られたとかも描いてないよ。安心して!!」
多分どこかフォローがずれていたのだろうか、忍足が私を見る目がどこかあほの子を見るような目をしている。
でも思春期迎えた男の子としては、私生活があまりにも赤裸々だったら困るじゃないの?
知られたくもないよね!
「大丈夫、私は信じてないから。忍足と跡部が恋人同士だって! 友達は妄想たっぷりだったけど。
 私は読んでても妄想はしてないから!」
「…………勘弁してくれ。何の話や? 俺と跡部が?」
「違うよね?」
「当たり前やん。どこからそんな話がでてくるのか分からん」
同人誌からなんて言えません。
そもそもこっちの世界でもコミケってあってるのかな?
ちょっと興味ある。
神奈川なら夏も冬も近いし、行けそうだよね。今度こっそり行こうかな。
「なんか、頭、いとうなってきた。悪いけど今日はここで帰らせてもらうわ。
オムライスご馳走様」
あら?
なんかよく分からないうちに、忍足退散だよ!!
これで自由。自由だね。
ラッキー!
嬉々として玄関までお見送りをしたのだが、忍足が振り返って念を押してきた。
「またこっち来るから。その時詳しく聞かせてもらうで」
「え?だから言ったじゃん!忍足も信じそうなんでしょ?いや、信じなくてもいいから関わるのやめないかな。普通。
 得体の知れない人と二人っきりになるって気持ち悪くないの?」
私は嫌だと訴えれば、忍足はなんだか可笑しそうな顔をした。
何か面白いこと言ったかな?私。
「次はかす汁とかあれば嬉しいけど」
「え〜。私あんまり好きじゃないんだけどな。あれ」
不満そうに口を尖らせると、何故か忍足はまた笑って。
「ほな、な」
と、次こそは去って行った。
あれ?
結局忍足は私の言うこと信じたの?
それとも胡散臭いで終わったの?
次も会うような約束もしたような気がするし…………。
…………。
なんだかそのうち有耶無耶の内に氷帝軍団で攻めてこられそうだよ!!!!!
そのことを想像したらぞっとする。
立海も相手しないといけないだろうから、嫌だ!
無理無理!!
って…………。


あ〜〜〜〜〜!!!!!


しまった。
後で寄ろうと思ったのに、忍足登場ですっかり忘れてた。
どうしよう。
立海の場所なんて知らないよ!
明日転校初日に遅刻?
迷子?
きっと全校生徒の笑いものになるかも知れない。
それだけでも何とか阻止しなくては!!
と、思ったものの特別何か対策があるわけでもない。
まぁ、いいか。
寝よう。今日は疲れたな。

切り替えの速さは、人並み以上です。

じゃないと、この世界に生きていけないと思うよ。
…………いや、もういいから帰りたい。
結婚式の続きでもいいから帰りたい。
長く居れば居るほど、不安になりそうだから。
帰れないことが不安なんかじゃない。
帰りたくない。
なんて思ったりするのが不安。
だってこの世界は私の世界じゃない。
私が生活する世界ではない。
ここは仮の世界だからいつか私はこの世界から吐き出されるだろう。
だけど、もし帰りたくないって思ったら?
そう考えると怖くなる。
そんなことないと思うのに。
そう考えれば考えるだけ不安になる。
私はこの世界に長く居てはいけないのだと、本能で感じていた。

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☆コメント
あれ?終わりはシリアスですか?
忍足編長すぎました。
いつもの2倍はあります。この頁(汗)
友人にグダグダと忍足編をどうするかと相談したわりにはこの状態。
結局忍足は信じたのか信じていないのか分かりせんよね。これ。
私も主人公や忍足と同じように書いていくうちに面倒になったんですよねぇ(苦笑)
もういい加減立海に行きたいと。
立海に行ってあれやこれやと大騒動を書いてみたいと。
それには忍足がもうちょっと参加してもらうんですけどね。

お待たせしすぎて支離滅裂なお話になっておりますが。
ようやく学園編へ行けそうです。

2008.9.22