人生何度目かにあたる絶体絶命大ピンチに陥ってます。
見詰め合う忍足と私。
微妙な空気がスーパーを支配しております。
知らない人が自分の名前をフルネームで言ったら気持ち悪いですよね。
それはストーカーかって思うね。
特に忍足だし。
跡部だってそうだね。
ってもしかして、今私は忍足の中で。
危険人物扱い?
それはとっても喜ばしくない状況だな。
そしてお肉を持ったまま、盛大にお腹の音が鳴った。
そうね。激しく状況にあってないよ。
でもお腹が空いた。
人間の3大欲ですから。


7.どこのどなたがお好みでしょうか?


「えっと、とりあえず買い物してもいい? 鶏肉買うから」
今日のご飯はオムライスに決定。
あの黄色い部分に、ケチャップでハートか。
テニスの王子様とやけくそ気味に書いてやろうかな。
「あのさぁ、ついでに食べていく? 毒とか盛らないから。髪の毛とか入れないし。
 心配なら一から作るところ見てもらってもかまわないよ。
 いらないなら、そのまま黙って待ってもらうことにするけどね。ご飯食べなきゃ説明はしない。
 お腹空きすぎて考えられないし。どうする? 忍足君?」
怪訝そうな顔でいる忍足に私は無視して話かける。
もう名前言ってもいいか。
どうせ今更名前聞くほうが変だ。
「大丈夫。グリンピースはいれないから」
「いや、グリンピースは平気やけど」
「そう? ケッチャップだけどおいしいよ。ご飯は生米から炒めると時間かかるからジャーで炊くけど
私の料理はうまいよ。食いしん坊は料理がうまいって言うからね」
忍足は、この状況がいまだなれないようだ。
まぁ、これだけ私が一人で話を勧めてたら戸惑うだろうな。
主導権なんか持たせるか。
怖いっていうの。
「で? 食べるの? 食べないの?」
「・・・毒が入ってへんなら貰おうか」
どこか胡散臭げに見てるな。こいつ。
オムライスに『伊達眼鏡』か『おたく』とか書いてやろうかな。
で、忍足貧乏説って本当じゃないよね? お父さん医者だし。
ぼへーっとしてたら更に忍足が胡散臭げに私を見る。
駄目駄目。ここで更に不審者というレッテルを貼り付けられたら困る。
こいつの裏には、氷帝の帝王がいるんだ。
やつまで出てこられたらたまらないよ!それだけは何としてでも阻止しなければ。
立海の魔王様でいっぱいいっぱいだと思うんだよ。
これからの学校生活ね。
それを横からいろんな人がこられても困る。
考えるに、多分この世界を知っているトリップ者は、テニスの王子様のキャラを
惹き付けてしまう何かフェロモンを持っているようだ。
そうに違いない。
じゃないと、これだけの確立で出会うのって変だよ。
「じゃぁ、まず買い物続きするからちょっと待ってて」
「ああ、はよう頼むわ」
「偉そうだなぁ…………。後は卵と玉ねぎ、ピーマンに人参ぐらいかな。
朝ごはんもいるからとりあえず米だな」
買うものが決まったら、勢いよく籠に入れていく、米が欲しかったから
近くにいる忍足に持ってもらった。
居るものは使えっていうからね。5キロの米を持ってもらったよ。
不満そうに『なんで俺が』って言ってたけどさ。



「うまい。めっちゃうまい」
忍足はスプーンを口に咥えたまま、とろとろオムライスをうっとり眺めていた。
…………その姿はちょっとキモイよ。忍足。
「毒なんか入れてないでしょ。そりゃ、私が食べるんだからまずいものなんて作らないわよ。一人暮らしも長いしね。
 まずいものは食べたくないからうまくなるのよ」
忍足のものはちょっとだけ卵が失敗したので、私のものより味は落ちている。
私のは完璧とろとろ加減も絶妙だし、ご飯もちょうどいい硬さで抜群にうまい。
やっぱりオムライスっておいしいなぁ。
「米は炒めてなかったよな? どうやって作るんや?」
「米? ああ、ジャーに炊く前にブイヨン入れてバター入れて、塩、胡椒に水減らしただけ。
 炊き上がったら乾燥パセリ入れて混ぜるだけだよ」
「へ〜〜」
忍足はオムライスをまじまじ見つめながら、スプーンを齧っていた。
とりあえず今の忍足はオムライスに夢中だ。
そのまま色々忘れてくれるほうが都合がいいのだが。
っと、あれ?
「ねぇ、忍足君って家どこ? 氷帝ってここから遠いんじゃないの?」
「あ? ああ」
そもそもここに忍足がいること自体がおかしいのだ。
だってここは神奈川。東京ではない。
「家はここの隣」
「ふ〜〜ん。……………………は?」
こいつ言いやがった。
お決まりの言葉を吐きやがった。
トリップって何?
本当に本当にみんなの想像から生まれたんだよね?
この物語通りの王道っぷりはどういう事?
「朝練とか間に合うの? 氷帝ってここからどれくらいかかるの?」
「ん〜。まぁ、電車通学だとたいしたことないんやけどなぁ。時々電車が遅れるねん。
 それで何回か朝練遅刻したら、跡部が切れてな。
 お前は俺様が用意した車できやがれ!といつも車が迎えにくるんやで。最初はそれもどうかと思って。
 丁重に断りを入れたんやけどな。跡部は一度言い出したら聞かへんのや。
 結局そのままずるずると跡部の用意した車に乗って登校してるんや」
流石跡部!
もう感覚が違いすぎる。
凄いよ。ありえないよ。ちょっとだけ生でこっそり向こう側から見たい。
近くでなくていいから。すでに忍足と会ってるからもういいや。
きっと跡部とかと会うと面倒なことになりそうだしね。
「次元が違う内容を有難う。ああ、食べたら皿もらっていい?」
からになったお皿を受け取り、台所に持っていく。
洗い物をしていると、背後から忍足がやってきた。
「お茶貰ってもええ?」
「いいよ。そこにあるカップ勝手に使って、冷蔵庫に入ってるからお茶」
背後でごそごそ音がする。
私は気にもせずに洗い物を続ける。
「なぁ、さん」
「ん?」
あれ? そういえば、忍足に名前名乗ったっけ?
「あのウエディングドレスって何?」
もうそこかよ!
「ああ、学校の演劇部に入っててさ、その関係で着てたんだけど、ゲームで負けたの。
それであの格好で家に帰るという罰ゲームをさせられたの」
嘘八百並べても、多分忍足には分からないだろう。
当たり障りのない嘘を必死に考えた結果、そんな嘘を考え出した。
これだと不自然さを感じさせないだろう。
これできっと忍足も納得しただろう。
しばらく背後で黙っていた忍足だったが、突然質問をはじめてきた。
「それで、一人暮らしはじめて何年目?」
「大学の途中から一人暮らしはじめたから、9年ぐらいにはなるかな」
「それってどこの大学?」
「博多大学」
「福岡?」
「うん。そうだけど」
淡々と質問してくるので、こっちも同じように答えた。
「じゃぁ、方言ってやっぱりバイとかタイとかいうんかいな?」
「タイは使わなかったな。バイとかは時々。自分では意識しなくても方言ってでるみたいだしね」
「俺はまるっきり標準語喋らへんからな」
「忍足君が標準語喋ってたら変だよね。絶対に笑っちゃうかも。その容姿で関西弁だからいいんじゃないの?
まぁ、その眼鏡のセンスが激しく分からないけど。もっといい伊達眼鏡購入したらいいのに」
でもあのダサい眼鏡が忍足の魅力を引き出しているといっても過言ではないのだろうけど。
「で、さんは何歳?」
「女性に年を聞くのは失礼なことって聞いてなかった? まぁ、君らよりはかなり上だけどさ。
 少しは気を使って欲しいものだよね」
「20歳以上ってことだよな?」
「そうはっきり言われるのもね。まぁ、事実だとしてもさ。もうちょっとオブラートに包めないのかしらね」
「20歳以上の大学卒業した人がなんでまた高校生のそれも2年ちう中途半端な学年に編入するなんて可能なわけ?
 …………ってことないよな? 学校の演劇部に入ってるはずなのに、明日から立海に編入予定。
 それってどうゆうことなんかいな? さん?」
直そうとしてた皿を危うく取り落としそうになった。
待て待て待て。
何? 今どういう展開になってるの?
あまりにも自然と流れるような質問に、こっちは口が軽くなったらしい。
矛盾なことを喋っているのも気づかなかったし、忍足が何を見ているかなんてそんなのも気づかなかった。
確か編入許可書って冷蔵庫に貼ってたよね?
…………こうなんていうか馬鹿正直な性格なんとかならないものかしら?
だからこうやって頭のいい人から突っつかれるとすぐにぼろをだしちゃうし。
トリップってどこまで話すといいんだっけ?
話すと支障はないのだろうけど、ありえない話だろうしね。
それに最初に教えるのってこれでいいものなのかしら?
物語つくるのは得意かもしれないけど、ここまで広がったのをまとめるのは正直無理だと思う。
むしろ、ますます不自然になるのは間違いない。
「転入許可書には、明日立海の生徒になる予定になってるんやけど?」
「…………じゅ、17歳ですよ。書類状には!間違いなく17歳」
途中で住民票をとりにいったら、私本籍が神奈川になっていて、年は17歳だった。
親は早くに亡くなっているらしい。
そんなことだろうと思ってたから、驚きはしなかったけど。
「書類状にはって、どんないいわけやねん」
君らだって、中学の時から普通の中学生に見えなかったじゃないのよ。
「益々話が長くなりますが、聞く気があるの? ややこしいよ?
 むしろ、聞かない方が面倒なことに首突っ込まないからいいと思うけど。忍足君」
「そう言われると、聞きたくなるのが人間やろ。聞かせてほしいんやけど。
 それより忍足君ってえらい言いにくそうにいうな。君ってたまに付け忘れてるし」
「うん。心の中では忍足って呼んでる。だって昔からそう呼んでたし」
「…………全部話すなら、その呼び方でも妥協したる」
「じゃぁ、場所かえようか。この台所じゃ落ち着かないしさ。お茶あらためて入れるから」
お皿持ったまま話すのもなんだしね。
…………やっぱりこう本当のこと話すのがベストなのかな?
実は病弱な妹が居て、その身代わりにとかってやつはどうだ?
それか、私は探偵で学校内のいじめ調査のために生徒として潜入調査をするってやつはどう!
いいんじゃないそれ!
なんかカッコいいし!
この前、ドラマで童顔の主人公が学校やメイド喫茶に潜入調査してたしね。
そういう感じで話持って行くのもいいんじゃない?
ばれなければだけど。
そんな甘い考えを持ちながら、お茶の用意をはじめたのだった。

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☆コメント
やっとやっと書き上げました。
なんか微妙な展開でちょっとだけびっくりだけど。
それも忍足編長い。
ぱぱっと書いて、立海に転入予定だったのに。あれ?
そして無駄に長い。ただの世間話なのに??
あれれ?
うまくいかない展開に早くも白旗をあげたい気分です。
関西弁って難しい。