ウエディングドレスでなんとか着地成功しました。
多少の犠牲はあったけど、終わりよければすべてよしって言うし。
私はあまり傷つかなかったから良かったけれど。
…………それよりも君達いったい誰ですか?
どこかで見たことあるような気がしますけど…………ね?


3.なりきり…………?


「真田副部長!?」
「真田!!」
「おい、大丈夫なのか?」
私の下敷きになった彼に、次々と心配そうに声がかけられる。
しかし誰も彼を助け起こすなんてことはしない。
…………まぁ、でかい図体だから起こしにくいのかな?
とでも思ってやらないと倒れた彼が不憫だよな。
「むっ…………くっ!」
ちょっとおかしな動きをしているが、倒れた彼はなんとか自力で起き上がり、眉間に皺を盛大に寄せる。
マッチ棒が挟めそうなほどの寄席具合。
「大丈夫そうだな。真田。まぁ、丈夫なだけが君のとりえだからね」
しれっと失礼なことを言う、見た目に反した細身の彼。

…………あれれ?

「そうだぜぃ。全国大会前に怪我したなんて、目も当てられないって」
赤毛の彼は、ほっとしながらも陽気に笑う。

…………ん?

「プリッ」
それは返事なのかと突っ込んでいいのだろうかと、銀髪の男に視線を向ける。

…………聞いたことあるぞ。その台詞。

「ところで、あなたはいったい誰ですか? どうしてあんなところにそんな格好でいたのですか?」
眼鏡の男が、私を怪訝そうに見つめる。

うん、ちょっと待ってね。
ほら、お姉さんもう29歳なんだ。
頭の思考回路が若い人よりも遅いわけ。
状況を理解するのが遅いのよ。
分かるかな?
若者には分かんないだろうな。
と、心の中だけで一人会話を進める。
当然、彼らには私が黙ったまま突っ立っているということになるわけで。

「ウエディングドレスで木登りかのう?」

…………そんな奇特な人会ってみたいものね。
ってか何?
本当に君達なんなの?
思考回路がぐるぐると渦を巻いたように混乱する。
私の体は無意識に、犬などに向けてするように、彼らに右手を待てとのごとく、差し出し。
左手を自分の額に当てた。
考えることがいっぱいあるからだ。

仮説その1
どっきりカメラか?
大掛かりなどっきりで、何ヶ月前から撮影に入っていたっていうのはどうだ?
親ぐるみのびっくりどっきり大作戦!!
その前に見合いを断った時点でアウトだろ。
そんな大掛かりにどっきりをするなんて私以外にいないだろ。
むしろ私がやるなら納得できる。
友人達には無理だ。
親なんてもっと無理だ。
じゃあ何?
別の可能性があるってこと?

仮説その2
この方たちは、撮影でこのテニスコートにいた。
っていうのはどうだろうか?
それならしっくりくる。
実写の撮影は…………あれから聞かない。
それともミュージカル…………ではないな。彼らじゃなかった。
むしろ彼らがぴったりなのに何故使わなかったのが疑問だ。
って、そこじゃない。
違うとすれば、コスプレイヤーのみなさんか?
しかし全部男性でそろっているのは珍しいし、貴重だ。
女性の方の集団ならパソコンサイトで見たことあるけど、男性でこれだけ勢揃いするのはまずない。
そうだ。
そういうことか。
彼らは熱狂的ファンであって、それぞれ完璧に役どころをこなしている。
だから名前までそれで呼び合っているのだ。
これで大正解でしょう!!!!
彼らに差し出した右手をぽんと左手に打ちつける。
あ〜、すっきりした!
そういうことか。

しかし肝心の結婚式にでようとしたら、扉の先は木だったなんてことは私の頭の中からすっぽりと抜け落ちていたのだけれど。
突っ込む人がいないから完全にスルーだ。
そんなの現実的ではないのだから、考えなくてもいい。
むしろ考え出したら、どこからどこまでおかしいのかが分からなくなる。


「ん? ようやく考え事がまとまったのか? では聞かせてもらおう。
 何故あの木の上にいたんだ。それもその格好で」
彼になりすました、目が閉じているのか分からない男が、さっそく質問をぶつけてきた。
「いや…………今から結婚式の予定だったのよ。こんな格好で木登りする花嫁さんとかありえないでしょう!」
今さっき自分がその状態だったのだが、そんなことは無視だ。
だって自分の意思ではないのだから。
已むに已まれずあの状態だったのだ。
足をおろさずに踏ん張ればなんとかなったはずなのに。
こんなおかしな状態にはなってなかったはずだ。
第一、コスプレしている人たちになんで私のウエディングドレスを指摘されなければいけないのだろうか。
こっちはコスプレなんかじゃないんだから!
今更ながらに、後ろから押した人物に怒りが湧いてくる。
絶対に見つけ出して、土下座させてやるんだから!

「しかし、ウエディングドレスで木に登ってたしな。こんなところに教会とかあったか?」
つるつる頭がナイスですな。
そんなに彼が好きなのだろうか。
じゃないと、そんな小麦色に肌を焼けないよね。ハゲにしないよね。
立派な心がけだ。
ボケーッとハゲをつい眺めてしまう。
「私だってそんなの知らないですよ。結婚式でないとやばいんですよね。困ったなぁ」
「そんなに困った顔してないようだね?」
にっこり裏のあるような笑顔を向けられて、ひくっとのどが鳴った。
正解!!
と、今なら似てないみのも○たのものまねができそうだよ。
凄いよ。
なんて凄い洞察力なんだ。


わかめ頭がなんだか訝しげに近づいてきて、嘗める様に私の周りをぐるぐるまわる。
ん? 何だ?
感じ悪いな。おい。
「あんた何歳ッスか? 本当に結婚式なんか挙げるんッスか?」
疑いの眼で聞いてくる。
なりきりって怖いよね。
私の結婚式の話より、君らの将来を話した方がいいよ。
コスプレ人生はやばいって。
そろそろ足を洗えるうちに洗ったほうがいいって!!<経験済み(?)
「人に年を聞く前に、自分の年をいいなさいよ。っていうか、名前も名乗る!」
「あんただって、名乗ってないじゃんか!」
「名乗るきっかけがなかっただけじゃない。怒りっぽいなぁってか、そうそう。そこの人」
今の今まですっかり忘れてたよ。
私の命の恩人にお礼の言葉を述べてなかったじゃないか!!
慌てて、いかついおっさん顔の人の傍にいく。
「大丈夫ですか? ごめんなさいね。まさか下敷きにするなんて思わなくて、本当に有難う!
 このドレス高かったから大感謝!君のおかげで何とか汚れずにすんだよ!有難う」
いくらコスプレしてようが、私の恩人には代わりはないわけで。
お礼は人としての最低の礼儀だよね。
伊達に年はくってない。
「う、うむ。しかし女子が木登りとは関心せんぞ。今回はたまたま良かったとはいえ。気をつけねばならん」
…………その言葉本気で言ってる?
そんな言葉を投げかけられても返事のしようがないよ。
うんとか、気をつけるとしか言いようがないじゃない。
しかし本当に顔もおっさんだと心もおっさんなのか?

「無視かよ!!」
わかめが怒り出す。
いや、こんなに人数いたら誰と喋ればいいのか分からないよ。
大体、名乗るとかじゃなくて、お礼を言ったら去るだよね?
ここどこだか知らないけど、結婚式場に戻らないとならない。

「まぁ、ところでここどこ? 私教会に戻らなくてはならないのよね。住所教えて欲しいの」
「人の話を聞かない女だなぁ」
赤毛の子があきれたように言うけど、そんなこと言われても痛くもかゆくもないもんね。
昔小学校の通知表に、人の話を聞きましょうってよく書かれたから慣れっこだよ<慣れるな。
「ここは神奈川県…………」
…………?
はぁ?
びっくりしすぎて県名以外聞き逃した。
待て待て、私の家は福岡だ。
明太子のうまい福岡だ。
博多明太子に、博多のひよこに博多通りもん。
結婚式ももちろん福岡である予定だ。
そう、私は福岡の教会にいたはずだ。間違いない。

「すみません。もう一度お願いします」
「ですから神奈川県…………」
「ストップ!!!!」
思わず眼鏡君の襟首を絞めていた。
眼鏡君ピンチであるが、私の方が必死だ。
「ちょ、ちょっと、ちょっと、ちょっと、いくら自分達が立海大のコスプレしているからって神奈川はないでしょう!神奈川は!
 ここって福岡だよね?」
「おい!柳生の首が絞まるって!放してやれよ!」
赤毛が必死になって私の手をつかむ。
「ここって福岡だよね」
「神奈川だ」
おっさん顔がきっぱり言う。
「あんたらのなりきりコスプレに付き合う気はないんだってば!
 ここは福岡だよね?そうだよね!」
ってか、こいつら以外に人がいないのか?
違う人だときっと聞いてくれる。
ちゃんと道も教えてくれるはず。
こんなやつらに関わっている時点で駄目なのだ。
目からうろこの考えに、両手で締め付けていた自称柳生君(自己紹介してないけど)の襟首から力を抜いた。
彼がほっとしたのが感じ取れた。
ごめん。気が動転してたんだ。って、あんたらの悪ふざけに巻き込まれている私は被害者だ!
そうそう。
とりあえず誰か探せばいいのか。

「出口どこ?」
「あっちに校門がありますよ」
首を私に絞められていても、眼鏡君は紳士的な態度を崩さなかった。
凄いよ!なりきりもそこまでいくと素晴らしい。
でも私的には大迷惑だな。
「そう、分かった。じゃぁ、アデュー☆」
せめてものお詫びに、彼の物まねを一緒にやってあげたわけよ。
ろくに挨拶もせずに、走り出した。
だってこのコスプレ軍団からいち早く逃げ出したかった。
昔の私なら文句なく、写真を撮りまくる。
ポーズをとってもらう。
だけど、いい年になったし、しかも今日は結婚式だ。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけもったいなかったなぁと思って校門という出口にダッシュした。
もちろんウエディングドレスを半分持ち上げた状態の、花嫁にはあるまじき姿でだ。



それからきっかり3分後。


「はぁ????」


校門の前で間抜けな顔をして間抜けな声を上げた。
コスプレもここまでいくと立派だ。
なんで校門に『立海大付属高等学校』と書かれているのだ。
彼らの仕業?
そして更に私を驚愕させたのは一人の通行人の言葉だった。
「何県かって?神奈川県よ」
ウエディングドレス姿の私に不審な目を向けながらも、まじめな顔をして答えてくれたおばさん。
思わずコスプレ軍団の仕込んだ通行人かと思ったほど。
そして確実に神奈川なのか?
と思ったのは、近くにあった地図の看板。
…………住所がどんなに目を凝らしてみても神奈川だった。
さすがに彼らもここまで仕込むことは無理だろう。
…………待て待て。
…………そうなると彼らは何者なのであろうか?
どう見ても、どんなに否定しても彼らは、彼らに見える。
そう…………信じられないぐらい彼らに見える気がする。
おいおい、そりゃないぜベイビー!と思わずおっさんの声がでそうなぐらい気は動転していたと思う。
そうだ、どこでもドアだったのではないだろうか。あのドア。
だから開いたら神奈川県とかになったってことじゃない?
いや、いや、ドラえもんなんていないから!
だったら彼らは何!?
怖い。正直もう二度と会いたくない。
でも、彼らに会わなければ謎は解けないかもしれない。
…………どうするよ!!
しばらく立ちすくんでいたが、決心をつけるために再びウエディングドレスの裾をがっつりまくりあげてきびすを返した。
元々気持ち悪いまま放置しておける性格じゃないから、はっきりしないと気持ち悪い。
仕方ない。
伊達に年はとってないのよ!
女は度胸だ!
彼らに会うべく、私は元の場所に戻っていった。
かなり混乱しているのだが、彼らに会ったらもっと混乱するであろうと分かっていたが。
それでも会わないでおこうという選択しには結びつかなかった。
彼らに会わなければここがどこなのか。
自分がどういう状況に置かれているのかいつまでたっても分からないのだから。
正直、あの場所に戻るのは気が進まないし。
彼らにもできれば会いたくないのだが。
背に腹はかえらえぬ!!
自分の運命をここまで呪ったことはなかったよ!!!
ええい、ちくしょ〜〜〜!!!
戻る 次へ

☆コメント
ここまできて名前の変更がありません。
すみません。
立海メンバーでましたけど、話は長い上、まったく進んでません。
土下座してもたりないぐらいですよ!!
人数多くて話が長くなりますね。
ヒロインも無駄に妄想が長い(苦笑)
次回でやっとトリップしたことが分かる予定です。
2008.6.25