去り行く俺から君へ


 まだ少し肌寒い季節。
 桜のつぼみはまだ開いてはなかったね。
 こんな結末を想像していなかったわけじゃない。
 むしろ、し過ぎるぐらいしていた。
 君との別れを・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。






 告白したのは俺だったね。
 君はそれに答えてくれた。
 小さく頷いてくれた君を俺は今でも忘れない。



 初めてのデートは映画館で。
 こっそり手をつないで、見てたね。
 はっきり言って、その時の映画の内容は覚えていない。
 ただつないだ手が温かかったのは覚えてる。



 会話が途切れたほんの一瞬。
 お互い自然と唇をあわせたね。
 それがとても自然な行為に思えたよ。
 君の後ろに広がっていたオリオン座は、今まで見た中で、一番に光っていた。



 体を繋いだのは、初めてのキスからそう離れてはいなかったよね。
 ドキドキしていた君の心臓の音まで忘れてはいないよ。
 俺もそうだったから。
 君の熱を今でも覚えている。
 たくさん泣かしてしまったけど、君は幸せだから泣いているんだって答えてくれた。



 それから俺と君とでたくさんの小さな幸せを積み上げていったね。
 笑ったり、泣いたり。怒ったり。
 毎日の些細なことが、君と関わっていると思うだけで幸せだったよ。
 キラキラ輝く宝石みたいに、俺の宝箱に詰まっていたよ。



 だけどそんな幸せの中でも、俺は知っていたんだ。
 君と俺の行く先は別だって事を。
 そうなると、騙していたってことになるんだろうか?
 君をもてあそんだってことかなぁ。
 分かってる。
 これは俺のエゴだってこと。
 自分の最後の願いに、君をつき合わせてしまった。
 何も知らせないまま。



 知ってしまった時、君は怒ったね。
 そして・・・・・・・・泣いてくれた。
 俺の胸を力いっぱい叩くこぶしが、ふるえていたのを知っていたよ。
 声をだして泣く君を、どうやって慰めればいいのか分からなかった。
 そう素直に言ったら、君は俺のことをバカって言った。
 そう。本当にバカだったね・・・・・。
 君を巻き込んでしまったんだから。



 一生一緒にいたいと本気で思った。
 一生君を幸せにしたいと本気で思った。
 だけど・・・・・・・それは出来ない約束だね・・・・。
 その時、本気で願ったよ。
 神様に。



 別れを切り出したのは、やっぱり俺で。
 君はそれを勝手だと言って、怒って泣いた。
 別れを切り出したのも、俺のエゴだよ。
 君には絶対に見せたくなかったから。
 格好つけていると思われても、かまわない。
 実際にそうだったんだから。
 君には見せたくなかった。
 君のなかの俺は、あのままの俺でいたかったからだ。



 俺は俺だから、タイムアップがもうすぐだということを、理解していた。
 覚悟はとっくに出来ていた。
 心残りなのは君だけだ。
 告白しなければ良かったと、思ったこともあったよ。
 君にそんな思いをさせてしまったことを少し後悔した。
 だけど俺はずるいから、君に俺を覚えて欲しかったんだと思う。
 俺という名の、俺を。
 忘れて欲しくなかったんだと思う。いや、忘れてほしいなんて思っていない。
 覚えていて欲しかった。
 君を置いて行くことを知っていたのにね。



 人間はやっぱり貪欲で。
 タイムアップ間近で、君の顔を見たいと思った。
 君の笑顔を見たいと、触れたいと、願っていたよ。
 あれだけたくさん君との思い出を作ったのにね。
 思い出だけじゃ、足りなかったみたいだよ。
 目を閉じたら、君が見えるかな?
 君の声を思い出すかな?



 愛しているなんて言葉は、きっと嘘っぽく聞こえるし、俺のガラじゃない。
 さようならなんて言葉は、大っ嫌いだから言わないよ。
 ありがとうなんて言葉は、安っぽく感じるからダメだね。
 どんな言葉だと、君は喜んでくれるだろうか?
 だめだね。
 俺に文才はないらしい。
 こんな時にどんな言葉を残していったらいいのか分からないよ。
 でも、例えどんな言葉を残していっても、君は気に入らないだろうね。
 俺が君だったら、多分君と同じ気持ちだっただろうから。
 俺の口から君に伝えることはもう出来ないけど。
 知っていて欲しい。
 俺は君といて幸せだったよ。
 一生分の幸せをもらったような気分だった。
 宝石をたくさんもらったような。
 ああ、やっぱりダメみたいだ。
 恥ずかしくてそんな言葉残せないよ。



 神様っているんだろうか?
 最後に君が見えたよ。
 君が俺に触れていたよ。
 泣いているのは分かってたけど、ごめんね。
 君の涙をぬぐってやることも出来なくて。
 君の声に答えてやれることができなくて。
 でも、ずっと思っていたよ。
 君のことを。



 幸せになってほしいなんて、俺が言えた義理じゃないけど。
 幸せになってほしい。
 愛している君だから。
 俺のことを忘れて欲しいとは、ごめんね。
 言えないよ。
 俺は最後の最後までエゴイストだったから。
 そんな俺だから、君の傍には行けないかもしれないよ。
 だけど、ずっと願っているよ。
 君のことを。
 ずっと。ずっとね。

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2008.7.27

☆コメント
こういう死にネタは幸村精市が一番似合うのではないかと(苦笑)
私が昔オリジナルBLサイトで書いてました。
オリジナルを無理やりこうやって持ってきました。
これはお気に入りだったので、何とかしてもう一度日の目をと思いまして。
こうやって書き直しました。無理やり!!
しかし精市がもし、もし万が一にも死ぬとしたらこうやって死ぬのではないかと。
ちょっとずるいようなこの置いていく方の彼は私のなかの精市にぴったりだったので。
もう彼しかいないと!!!まぁ。初の短編がこれですよ(笑)
申し訳ありません。悲恋で。