声
声を聞かせて
それは奇跡の出会いだった。
大好きな仲間に出会い、好きになってもらい、ぬくぬくと愛情を貰ってその世界にいた。
それを奇跡と言わずに何と言おう。
夢のような毎日。
幸せの日常。
だけど。
それは偽りのもの。
夢は夢であって。
ホンモノではない。
漫画は漫画であって。
ゲンジツではない。
でもそれでも私にとっては夢じゃなく、漫画でもなかった。
みんなと生活できる幸せと、みんなと同じ時間を共有できる奇跡。
だから、異物は排除されるべきものだと私は理解しようとしなかった。
したくなかった。
奇跡は奇跡のままでいてほしかった。
いつまでもこの世界で笑っていたかった。
景吾の隣で。
覚悟をしてこの世界に舞い戻ってきた。
どんなに辛いことがあっても、どんなに苦しくても戻りたい世界だった。
だけど、その覚悟は早くも崩れそうになる。
景吾の目が怖い。
知らない人を見る目。
他人を見る目に耐えられない。
そして景吾が大事にしている人を見る目。
どれもこれもが怖くて、苦しい。
こんな風に異物として扱われるのなら、この世界に戻るなんてことをしなければ良かった。
苦しいだけで、何もできないのなら戻ってくるべきではなかったのかもしれない。
出会えた喜びと、再会できた嬉しさが、今は全てにおいて怖いという感情で塗り替えられてしまっている。
足元が不安定だ。
望んでいた世界なのに、今は知らない不安だらけの世界。
帰りたい。
この世界に来て、はじめてそう願った。
夜の街は妙に明るくて苦手。
真っ暗闇を明るく照らしてはいるけど、どこか冷たく、寒々しく感じる。
光の洪水が人々を照らし、私はただ充てもなく歩きだす。
この世界に戻ってきて、一人が寂しくなった時に、よく夜の街を当て所なく歩くのだが。
気分はいつも落ち込んだ。
人々の明るい笑い声を聞くたびに、どんどん気分が沈んでいく。
一人ぼっちだと強く認識してしまう。
だったら夜の街など歩かなければいいのだが、何故か出歩いてしまうのだ。
事情を知っている不二君に連絡を取ろうとしたのだけれど、いつまでも甘えていては申し訳ない。
何日おきかに定期的にメールしてくれる優しさを、更に利用などしたくなかった。
もちろん英二君たちだってメールをしてくれるけれど。
ぽっかりと胸にあいた寂しさを埋めることはできなかった。
当て所なく歩き、クタクタになってしまえば何も考えられずに帰って寝れるはず。
それだけのために歩く。
ただそれだけ。
人々の笑い声に、無性に一人ぼっちだと寂しくなるけれど、夜の街に出かけるのをやめられなかった。
誰も私のことを知らない人たちの間を通り過ぎていく。
こうやって私もみんなの人生の中でさっと通り過ぎていくだけの存在だったのかもしれない。
すがり付いて、戻ってくるのはやっぱり間違いだったのかな。
暗くなっていく思考に、下を向いて歩いていると。
「ちゃん!?」
明るい声が、私を呼んだ。
それは聞き覚えのある声。
驚いて振り返ると、にこにことした顔と目があった。
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☆コメント
主人公に何か変化を与えようとしたら、思わぬところで人物を出すことになりました。
あれ?
おかしいなぁ?
こんな設定なかったぞ。
…………最終回はこうなるとか思っているけれど、これを円満解決するのはとても難しいかもと思いつつ。
シリアスやっぱり大好きだと思ってしまう作品です。
次回は意外な展開が!?(…………と思います 苦笑)
2008.11.8