声を聞かせて

「行くな! !」
抱きしめられた両手が震えているのが分かった。
「戻りたくないよ。景吾」
私の声も震えている。
来た時は不安と、期待でドキドキしてたのに。
こんなにこの世界が大好きになった。
本気で恋愛なんてできるわけないとあきらめていた人と。
想いを伝え合って、付き合えるようになった。
大事な仲間にも出会えた。
大事な親友もできた。
だけど忘れていたよ。
ここは私の本来のいるべき世界じゃないって。
いつかは、もしかしたら帰る日が来るかもしれないってことを忘れてた。
いや、忘れようとしていたのかもしれない。
現実なんか見たくなかった。
ずっとずっとここにいたかった。
だって勝手にここにつれてこられて、勝手に帰されるなんて。
じゃあ、なんで私はここに連れてこられたの?
この場所に、君らに会えたのはただの偶然?
意味のあるものではなかった?
「景吾」
一番大好きな名前を呼んでみる。
ここに留まる為の呪文のように繰り返し繰り返し。
彼もずっとずっと私の存在を確かめるかのように名前を呼んでくれた。
幸せだと思う。
こんなに必要にされて。
こんなに思われて。
だから絶対に帰りたくない。
傍にいたい。
「大好きだよ」
最後まであなたに届いたのだろうか?
ぎゅっと握り締めていたはずの両手は、何も掴んでなかった。
「景吾、景吾……」


帰りたくない。


帰りたくない。


帰りたくない!!






眩いぐらいの光に照らされて、ゆっくりと瞳を開いた。
見慣れた天井を見つめながら、ただ涙がこぼれた。
ああ、帰ってきてしまったんだ。
現実に。
ここに。
もうあなたとは会えないんだね。
二度と会うこともないんだ。
流れる涙をぬぐうこともせず、私は泣いた。
景吾を思って。


。好きだぜ』


もう二度と面と向かって言って貰えない言葉。
大好きだよ。
小さく呟くとますます涙がこぼれていく。
泣くだけ泣いたら、右手のリングに気がつく。
「…………」


『そのうち左手に飾るやつやるから、今はそれで我慢しろ』


ぶっきらぼうに言う景吾に、涙ながらに頷いた。
戻ってしまったらこれも消えてしまうと思っていたのに。
「景吾…………」
返事の返ってこない名前を、何度も何度も呼び続けた。
泣きながら眠ってしまうまで。




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☆あとがき
立海が煮詰まった時に、逃げました。
それもシリアスに。
私はシリアスが得意です。
でもギャグも得意です(おいっ!)
嘘です。全部読むのが大好きです。
でもどうせやるなら泣けるシリアスってことでまだ立海がまったくもって終わってもない。
はじめたばっかりの状態で、2本も連載抱えました。
馬鹿ですよ。
大馬鹿ですよ。でもいいんです。
どうせのんびり好きなように書いていくんですから!!

2008.7.6