声を聞かせて



「無理よ。無理。だってそんな」
慌てて首を横に左右に振って断るが、相手は諦めない。
「お願いだよ。ちゃん。不二がちゃんはベテランだって言ってたよ。
 練習試合だけでいいんだ。一日だけ!臨時で。このとーり!!」
両手をあわせて、拝み倒す英二君。
困ったように、隣に立つ不二君を見る。
「ごめんね。ぽろっと英二に言っちゃったんだ。ちゃんがマネ経験があるって」
心底困ったように不二君も英二君を見る。
だが頼んでいるのは英二君だけではなかった。
「そりゃぁ、違う学校に通う先輩に頼むのは間違っていると思ってるんッスけど。
 お願いします!今回だけは試合に専念したいんです」
桃城君にもお願いされ、無言で越前君も頭を下げている。
「普通の練習試合ならどうってことないんだけど、氷帝に立海はやっぱり試合だけに専念しておきたくてね。
 マネやってくれる子をその日だけさがすんだけど、いつもいい子にあたらなくて。
 青学と氷帝・立海の3校練習試合はさすがにちゃんとしたマネがほしくてね。でも、嫌ならちゃんと断っていいんだよ」
「あ〜、そんなこと言わないで! お願いちゃん。この前俺ら氷帝に負けてるんだ。
 最近氷帝結構強くてさ、あまり負担をかけないからこのとーり!」
今にも土下座しそうな英二君の様子に、正直困ってしまった。
頼まれる日曜日は予定はない。
だけど、氷帝と立海・青学の合同試合に青学の臨時マネとして出るのは気が引ける。
正式試合じゃないから、別に他校生がマネとして出るのは問題ないんだろうけど。
景吾たちの前に出るのはまだ、躊躇ってしまう。
特にマネのあの子がいるから尚更。
「でも私ができることなんて少ないよ?」
「冷えたドリンクと、冷えたタオルを持ってくるだけで十分だよ!」
英二君が慌てて言い返す。
「でもそれだったら、事前に準備できるんじゃない?」
クーラーボックスに持っていけば十分だと思う。
「いやいや、だって1日中だし、それにそれだけでも俺達十分助かる!
 何より可愛い女の子から渡されるドリンクだよ? それだけで違うもん!」
「英二…………」
不二君が呆れたように英二君を見る。
でも、言いたい事は分かる。
私だって今までちゃんとマネしてたから尚更だ。
ドリンクだけじゃなくて、タオルの用意。ドリンクは多分何度か補充がいるだろう。
タオルもいるだろうし、スコアつける人もほしいだろう。
それから怪我をした時の応急処置ができる人。
強いチームと試合をすると、どうしても怪我がでてくる。
つい、勝つことに集中して、無理なプレーをしてしまうのだろう。
練習試合でも、よくお互い怪我をしていたことを思い出す。
彼らがテニスにかける気持ちは真剣だ。
練習試合だっておろそかにはしない。
氷帝のメンバーを気にしなければいいだけだ。
青学の傍にいて、こっそり動けば分からないだろう。
私がまさかマネをしているなんて思ってないはず。
こっそりマネをしていれば、分からないのでは?
あまりに真剣に頼む英二君が可哀想になっていく。
それに、不二君にも何か私にできる事があればやりたかった。
いつもいつも迷惑かけている気がする。
ほんの少しでも役に立てたら。

「でも多分あまり自信ないけど、それでもいいの?」
その言葉に、英二君が嬉しそうに顔を上げた。
「本当にやってくれるの?」
目がキラキラしている。
なんだか嬉しくなった。
英二君の嬉しそうな顔を見るのはとても好きだ。
なんだかこっちまで幸せになる笑顔。
「自信ないけど、それでもいいなら、よろしくね」
片手を差し出したら、ぎゅっと握られてブンブン振られた。
「有難う! ちゃん!」
「有難うございます!!!」
「……どうも」
「本当に…………ごめんね。有難う。ちゃん」


ほんの少しだけ、この世界に必要とされている気がした。
私にできること。
久しぶりのマネは自信がないけど、それでもなんだかわくわくする。
ボールの跳ねる音。
打つ音。
試合の緊張感。
どれもこれも大好きだったから。

「用意があるから土曜も青学に行っていい? 練習するんでしょ?」
日曜の用意をするからと言ってそう申し出れば、英二君は益々笑顔になる。
「もちろん!大歓迎だよ!! 本当に有難うね。大好き!ちゃん!!」
裏表のない好意を向けられて、くすぐったくなる。
「私もだよ。英二君」
そう返すと、本当に嬉しそうな笑顔になった。
もちろん不二君も桃城君もリョーマ君もと付け加えると。
三者三様の笑顔を向けられた。
でもリョーマ君はちょっとだけ耳を赤くして向こうにプイッと顔を向けられてしまったけど。
そんな他愛もない触れ合いに心は温かくなった。

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☆コメント
主人公が青学マネの臨時をつとめますよ。
でも次はすぐに練習試合になる予定です。
前日にいく青学の出来事はあまり書くことがないので。
大体主人公の紹介等ぐらいしかないですしね。


2008.12.21