「儚げに見えて、男らしいって言うか、腹黒いって言うか。
影の大ボスだよね!! だってあの真田が副部長なんだよ?
絶対に一筋縄ではいかない性格だって!!」
「あの儚げな見た目にだまされてはいけないってことか?」
「そうそう、だから同人誌とか見てみなよ。ゆっきーほとんど腹黒じゃん!」
まるっきり友人たちの言葉を信じていたわけじゃなかったけど。
だって漫画だし。
性格だってちゃんと分析できるわけじゃない。
だから笑って聞いてた。
知らなくたって、別に困ることじゃない。
知らなくても生きていける。
まさか、幸村にこうやって会うなんてことが現実におきるなんて思ってもみなかった。
まさに友人の言うことが当たってました。
幸村は色々容赦ありませんよ。
女の子に優しくするって言葉、知らないはずはないよね?
ね?
それとも私限定!?
20.マネージャーとしての心得
痛い。
頭が超痛い。
頭の上にのっているのはアイスノン。
そのアイスノンを押さえるために、タオル。
まるでおたふく風邪の様なありさま。
どことなく、というか、確実にみんなの視線がすごく同情溢れて痛い。
超痛い。
頭と連動して痛い。
体と心とプライドが!!!!!!
許すまじ!!!!!
幸村!!!!!
あいつ、容赦なく私の頭を粉々にする勢いで掴みやがったよ!!
ジャッカルが倒れてどうしようかとちょっと考えながら居眠りしてただけなのに!
それなのに。
ちょっとだけ早起きしたから眠たかっただけなのに。
寝ていた私の頭を鷲掴みにしやがった!!
ボリッてバキッて音がした。
確実に何かが壊れた。
おかげで、むちゃくちゃ頭痛いし、なんか絶対に頭がおかしいもん!!
授業にきた先生に毎回説明を求められるなんて、面倒だ。
そのたびに隣の席の幸村はにこにこと笑い、私の怒りはふつふつと逃げ場なく増えていく。
こんちくしょー!!
私は悪くないもん!!!
29歳なのに、なんでこんなに17歳相手に振り回されなきゃならないんだよ!
私大人なのに……………(メソメソ)
こんなんで本当に私テニス部のマネージャーとか務まるのか?
ってか、むしろ辞退したい。
辞退して私の素敵な学園ライフをもう一度!!
いやいや、それよりも私また普通に結婚式場へ戻りたいんだけどさ。
本当に、なんでここで幸村に好き放題されてるんだろうか。
頭痛いとうんうん呻いていたら、もう放課後ですか……………。
そして一緒に部活に行ってくれるのは、ジャッカル。
どうもね、私の世話係はジャッカルらしいのね。
目の周りにできた痣は今日の朝のやつだから痛々しいし、ちょっと腰が引き気味なのは私に対して警戒してるってことか?
ちゃんとジャッカルが目を覚ました時に謝ったのに。
乙女のパンチぐらいよけろよ。
真田に渇を入れられたりするんなら慣れっこじゃんかよ。
なんで私のパンチぐらいで倒れるかなぁ。
「乙女のパンチじゃねぇし」
あり? 口に出してたみたいね。私の考え事が駄々漏れ?
「悪かったよ。ジャッカル。あれは事故みたいなものでしょ。本当にごめんって」
「謝罪な気持ちがあるなら、ちゃんとマネージャーをやってくれ」
……………う〜ん。
でもそれとこれとはねぇ。
しかしやっぱり幸村が怖いしねぇ。
メソッ。
「いいわよ。ドリンクと洗濯ぐらいやってあげるわよ!!それ以上はもう何もしないから!!」
どうせしなくてはいけないなら、腹をくくってやろうじゃないのよ。
面倒だけど。
幸村怖いし。
真田役に立たないし。
しかしまだ幸村から聞かれてないこととか、沢山あるんだよねぇ。
頃合を見てから聞かれたら、私どうやって切り抜ければいいんだよ。
ウエディングドレスのことだってうやむやにしてるし、結婚式するって言ってたし。
コスプレとか言ったし。
そのことを幸村が忘れるなんてことはないと思う。
万が一、忘れたとしてもあの柳の頭の中にインプットされていることは間違いない。
たぶん後から後からきっと不都合なことが山のようにでてくるんだろうな。
間違いなく。
ため息をつく私に、マネージャーの件でOKを貰ってちょっと安心な顔をしたジャッカルが、人のよさそうな顔して私に何かを差し出した。
「……………何? これ」
「何ってマネージャーの心得本とテニス部のメンバー表にマネージャーとして最低限覚えてほしいことが書いてある本」
「待て待て待て待て!!あんたこれ、広辞苑よりも分厚いんですけど!!一冊が!」
3冊しかないのに、渡された本はかなり重くて何かの冗談だろうと思いたい。
「それ去年柳がまとめたやつなんだぜ。だから読みやすいとは思うんだがな」
ぺらっとめくると、確かに分かりやすそうに解説され、図だって載っている。
何? この痛めたときにはこういうテーピングの仕方で固定しろって。
……………。
「あんた、洗濯とドリンク作りで良いって言ってたじゃない。なんでこんな本があるのよ!」
「テニスを理解してなくてマネやるより、理解したうえでドリンクやら洗濯の方が何かあった時に対応できるだろう」
それは正論だ。
しかし!しかし私は強制的にマネをやらされているのだ。
なのにこれ?
胸にずっしりくる本に気力も体力も奪われそうよ。
「まぁ、それは帰ってから読んでもらうとして、今日はドリンクについての説明な。それから洗濯機の使い方」
ジャッカルは軽やかな口調で私の苦虫噛んだような顔を無視した。
綺麗に。
……………神様。
こいつに回し蹴りしてもいいですか。
いいですよ。
どこからか声がする。
きっと神様も私のこと不憫に思っているんだろうな!
よし!と片足に力を入れてそっと足をあげた瞬間に、むずっと掴まれた感触がした。
ビクッとその相手を振り返ったら。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ゆ、ゆ、ゆ、幸村ぁぁぁぁ!!!
なんであんたがここにいるのよ!!
ついでになんで私の生足を触ってるのよ!
「きゃぁぁっぁああ!!!!!!!!」
さ、触り方がいやらしくなっ・・・・
助けてぇぇぇぇぇ!!
セクハラ!セクハラ大魔神がいますぅぅぅぅ。
大混乱に陥った私に、幸村はそうとても素敵な笑顔で私を見下ろしておりました。
「これでも大事なレギュラーメンバーだからね、ちょっと手加減してくれないかな?」
や、あんた。そう言って、ちょ!!!!
手が!
手が!
スカートの中まで!!!!☆☆☆!!!
ジャージ面倒がらずに着るべきだったよ!!!
「ゆっ、ゆっ!!!」
もう声が出ずに固まる私に、幸村の背後から誰かが現れたのが見えた。
逆光で顔が見えないと思った瞬間に、幸村の頭に踵落しが。
決まったかのように見えたけど、瞬間的に幸村はさっと見事に逃げ切った。
目を白黒していた私に、やっと幸村の後ろに現れた人物が確認できた。
「幸村!?」
幸村が二人いる。
え?え?え?
「俺の顔でセクハラするなんていい度胸だね」
どす黒いオーラを垂れ流して笑顔の幸村と、涼しげな顔の幸村。
……………えっと。
何?
あ、ああ!!!
「仁王!」
仁王しかいないでしょう。こんなの。
私の声に、幸村の格好した仁王がおやっといった顔で見る。
ああ!!もうしまった。
私なんで仁王がペテン師って知ってるんだよって話だよ。
ああ、もう泥沼ですよ。
早く家に帰りたい。
トリップってなんて面倒なんだよ!!!
29歳の女が17歳ぐらいの男の子に振り回される現実。
何度目か分からないヘルプを神様に向かって、投げつけた。
現実と思いたくない。
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☆コメント
本当は幸村がセクハラする予定だったけど、さすがにスカート入れた時に幸村はそんなことしないと思った。
ので、急遽仁王にしてみた。
いきあたりばったりな設定(笑)
2010.5.30