転校初日って、うざいぐらいにクラスメイトが集まってくるのが普通じゃない?
机を囲まれて、どこの学校から来たの?とか。
どこの県から引っ越してきたの?とか。
血液型から家族構成。
どこの面接かよ!!って突っ込みたくなるほどうんざりする質問攻め。
それが転校生のお約束だよね?
ひっそりこっそり見守られるのってどうよ?
何?
私が暗いとかそうじゃないのよね?
つとめて明るく、愛想よく。
29年間の人生で培ってきた笑顔を振りまいて転校してきましたよ。
ってかさ、29歳というハンディを背負ってるんだから、普通になるように普通に普通に。
これでもかってぐらい普通に転校してきたつもりですよ。
そりゃまぁ、多少忍足というハプニングはあったけども?
それともやっぱりあの隣に笑顔で笑っている魔王様のせいですか?

あのつるっぱげが、とんずらしたせいで、私がこんな目にあっているのは!!!!!!!
このハゲが!
と、今声を大にして叫びたいです。


12.魂を売るよりも恐ろしい


昼休みは、チャイムと同時に席を立って、ダッシュで逃げ切る。
2時間目から呪文のように頭に繰り返してきた言葉。
魔王につかまる前に、何としてでも逃げなければ!
たとえジャッカルを投げつけたとしても!
意気揚々とその時間を待っていた私を、奈落の底へ突き落としたのは、やっぱり魔王様だった。


授業が終わる一瞬で立ち上がった私の肩をガシッと、男の力で見事に掴んだのは幸村。
ギョッとして振り返ると、笑顔が崩れることのない幸村。
「どこに行くつもりかな?」
マイナス5度ほど空気を低くして、優しそうな声で問う幸村は大変恐ろしかった。
ぎこちなく笑顔を返すと、肩の力が益々強まる。
「ちょ、あんた本気で肩砕くつもりかよ!」
あまりの痛さに顔をしかめるが、幸村は首を傾げる。
「そんなに痛く掴んだつもりはなかったけど、ごめんね」
いや、ごめんねって言いながら益々力入ってますから!!!!
気分はドナドナ。
売られていく子牛。
「私、弁当は持ってきてないんだけど。幸村君?」
「そんなの必要ないから」
必要ある。
必要あるっていうか、それを口実に逃げたいんですけどね。
「ほらほら、みんな待ってるから」
待ってるって?
待ってるって誰が?
みんな?
ちょ、ジャッカルあんた何こそこそ移動してるんだよ!!!
その弁当をどこに持っていくつもり!?
さ〜な〜だ〜。
あんたも見ないふりしながら、弁当持ってどこに行くつもりだよ!!
「ほら、俺達も遅れないように行くよ」
「誰も約束してって、痛い!マジ痛い!この馬鹿力!!!!」
もう嫌だ。
このすっとこどっこい!
うえぇ〜〜〜ん。
話の通じない宇宙人に強引に屋上へ連行されました。
もちろん…………ちゃんと揃ってましたよ。
ジャッカルも!!!!!



「みんな。今日から俺の隣の席になったさんだよ」
ジャッカルの席の隣であって、断じて貴様の隣になった覚えはない。
と、言いたいけど肩に置かれた手が怖い。
「みんな覚えてるよね」
まるで死刑台に立った死刑囚のような扱いだ。
お披露目される私の心臓はマックスまで跳ね上がってますよ。
「あの真っ白純白パンツを惜しげもなく披露してくれて逃げた女かのう」
「…………」
固まりましたよ。
ええ。ええ。
仁王のやつめ!乙女に向かってパンツの話をするとは!!!
「ああ…………あの」
赤也がうっすらと顔を赤くしてるよ。意外と純情だったんだな。
「結婚式とか言いながら、俺達と同じ年だったのか?」
「…………」
困った。
本当に困った。
つじつまがまったく合わない。
忍足に説明するよりも困難だよ。
だって状況把握する前にこいつらに会ってるんだから。
まずいことも言った様な気がするし。
色々再度会いたくないメンバーなんだよね。
もうこの状況で立海メンバーには深く関わらないなんて無理な話じゃないのよ。
やっぱり私の体からは何かしらのテニプリ関係しか効かないフェロモンが漂っている。
間違いない!(昔こんなギャグ使うお笑いがいたような?)



「そういえば、隣の教室で『はぁ?』とか『ひぃぃぃぃぃ』とか聞こえていたのですが、あなただったんですね」
柳生がどこか納得したような顔をして私を見ている。
…………紳士ならそんなもの忘れるべきじゃない?
むしろ乙女の奇声とかは聞かなかったふりをするべきじゃない?
エセ紳士かよ。
「俺はずっと意味なく睨まれてたぞ」
ジャッカルがぽつりと呟いたので、ギロッと睨みつけてやった。
あ〜ん?
意味なく?
お前と幸村の席替えチェンジは私にとっては意味があったんだよ!!!
ジャッカルのやつめ。
この肩に置かれた幸村の手がなければ、裏拳かチョップをお見舞いしてやるのに。
幸村が憎い。
ああ、もうとんずらして逃げたい!!


「そうそう。で、さん、ちょっとおね……
「断る!」


幸村の言葉を素早くさえぎった。
最後まで言わせてはならない。
絶対に言わせたら最後だ。
この口を死んでも割らせてはいけないと、私の危険警報機がマックスになるほどなっている。
幸村は自分の言葉をさえぎった私を見つめてにこにこしている。
これが危険だ。
ここで騙されてはならない。
立海メンバーも喉をごくりと鳴らしてこちらを見ている。


さん、ちょっとおね……「断る!」


「断じて断る!」


ここで甘い顔をしてはいけない。
多少の隙さえも見せてはならない。
私はNOと言える日本人だ。
幸村の笑顔が益々マックスになる。
うわぁ。キラキラ笑顔だなぁ。
なんて惚けている場合じゃないんだって!

「痛っ!!いでででっでででで!!!!痛い!!痛いってば!!!!この馬鹿力!!!!!!!」

洒落にならない痛みが肩全体に広がる。
このままでは確実に肩が砕ける。
痛いなんてもんじゃない。
こいつ本気で私の肩を壊す気じゃ…………(焦)


「わ、分かった。聞く。聞くだけ聞いてやる。だから肩だけはやめて!!!!」

白旗をさっさと揚げるしか私に逃げ道はなかった。
かなり腹が立つけどね。
メンバー全員見てないふりしてるしさ。

不意に肩の力が抜けた。
多分あざが盛大にくっきり残っているだろうな。

「そう。お願い聞いてくれるんだね」
幸村の笑顔が怖い。
こいつが立海テニス部部長っていうだけで薄ら寒いよ。
普通の常人じゃ無理なポジションだし。


「テニス部のマネージャー、今日からだから」


「はいっ?」


こいつ今なに言った?
お願いとか言いながら決定事項として言わなかった?
しかも何?
私の耳がおかしくなったってことじゃないよね?
こいつ…………。
まじまじと幸村を見つめると、変わらない笑顔がそこにあった。


嘘…………ってか夢?
これ多分悪夢。
そう、トリップなんてしてなくて、悪夢を見続けているだけだよね。
うん。そうだ。そうだ。


「よろしくね。マネージャー」


固まる私に更に追い討ちをかけるように、幸村ははじめて見る極上の笑みを浮かべてくれた。
それはそれは壮絶に。

悪夢だ。


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☆コメント
お約束ですよ〜〜。
マネージャー勧誘です。
主人公まったく乗り気もないし、幸村が大ッ嫌いだと思ってますけどね。
なんだか久々に長くなった気がしないでもないけど、話自体はまったく進んでないかな?
次回もマネージャー勧誘編になります。

2008.12.1