声を聞かせて



誰かが泣いている。
小さな泣き声が聞こえて、目が覚めた。
こんなことはあまりなくて、自分でも不思議だった。
小さな音で目が覚めるなんてほとんどないのに。
その声の主を探そうとうろうろしてたら、大きな木の陰にかくれて女の子がいた。


さんだぁ…………」
同じクラスの女の子。
そしてテニス部の臨時マネをしている子だ。
自分でも不思議なぐらい足が進む。
面倒なことは基本的に嫌いな俺が、泣いている女の子に近づくなんて普通ならありえないことだ。
「どうしたの?」
声をかけると、驚いたように涙の濡れた瞳でこっちを見るさん。
「芥川君」
慌てて涙をぬぐって、なんでもないと答えるさんの腕をぎゅっと捕まえた。
「芥川君?」
「誰かからいじめられた?」
首を小さく左右に振る。
「悲しいことがあったの?」
繰り返し何度も大丈夫と呟く彼女の姿が痛々しかった。

『泣かないで。   ちゃん』

不意に夢の中の俺の言葉が浮かぶ。
あれ?と思う間もなく、また。

『泣かないで。俺が傍にいるから。ねぇ、泣かないで』

何故なのかと考える間もなく、次々と夢の中で俺が言った言葉が頭の中からでてくる。
同じシチュエーションだからだろうか。

夢の中と現実とがごっちゃになっているのだろうか。

「俺が仕返ししてあげるよ。だから笑ってよ」
自分でも思わぬ言葉がでた。
ぽんと考えなしにでた言葉だ。
案の定、さんが驚いたような顔をした。
唇が震えている。

彼女が泣くのを見たくなかった。
何故か強く思う。
同じクラスで、臨時マネだけどほとんど接点のない人なのに、どうしてかな。
泣いているのを見るのが酷く辛く感じる。
笑って欲しいと思ってしまう。
こんな風に思うのはおかしいのかな。

まんまるになって俺を見つめているさんに。
「ジローちゃんって呼んでみてよ」
そうお願いするのはおかしいことなのだろうか?
不意にそう言ってもらいたくなった。
何かが分かりそうな気がした。
一言そう言って貰ったら、何かがかわりそうなそんな予感がした。
「お願いだから、一回でいいから言って」
彼女の唇の震えが大きくなる。


『ジローちゃん』


あの声は誰?
誰が俺を呼んでるの?
君のことが知りたい。
君を見つけたい。
お願いだから顔を見せてよ。


「ねぇ、ちゃん」


何かが頭の中ではじけるような音がする。
何だろう?
何だろうこの気持ち。
さんの唇がゆっくり開いていく。

俺の名前を呼んでよ。


「…………ジロー……ちゃん…………」


囁くように言った声は確かに俺に響いた。
そして夢の中の色彩がどんどん広がっていく。
あの黒い闇のような夢の中が色塗られていく。



「あれ?」
だけど、だけど彼女の顔が見えなかった。
知らずに、瞳から涙が溢れ出る。

君は誰?
どうして泣いてるの?

どうして周りは色鮮やかなのに、君に色がないの?
顔が見えないの?
どうして分からない?
あれは絶対に目の前にいる彼女なのに。
何故?
何故邪魔をする?



頭が痛い。
割れるように痛い。
でも、ここで倒れるわけにはいかない。
俺は、何かを思い出さなければならない。
何かが足りない。
何かがない。
何が?
どこにある?


ミナミちゃんの顔が消えては現れ、何かをつぶしていく。
何で?
何故ミナミちゃんの顔が今でてくるのか分からない。
違う。
ミナミちゃんじゃない。
あの子はミナミちゃんではない。
だけど頭が痛くて考えられない。


頭を抑えて苦しみだした俺に、さんは悲鳴のように俺に叫ぶ。
「駄目よ! お願いだから、何も考えては駄目! ジローちゃん!!」
悲痛な叫びが胸をつく。
大丈夫だと言ってあげたいのに。
それができないほど頭が痛い。
あとちょっとなのに。
何が邪魔をするのか分からない。
思い出したい。
あの子の顔を。
「ジローちゃん!!」
雨のような粒が、落ちてくる。
泣かないで。
そう言いたいのに、痛みで何も言えない。
ごめんね。
謝罪の言葉も言えない。


あと少し。
あと少しなんだ。
君の顔が見たい。
君を思い出したいんだ。





そして俺は意識を失った。
倒れた俺を抱きしめたのは彼女だった。
無意識に飛び出した言葉。
「ごめんね。ちゃん………」
大きな涙をこぼす彼女の顔を見ることも、なぐさめることもできなかった。
「ごめん。ごめんねぇ。ジローちゃん。苦しめてごめん。もういいから。ほんの少しでも覚えてもらえて嬉しかったから。
 お願いだから、私のために苦しまないで…………」
消え入りそうに涙声で言う彼女の言葉は倒れた俺には届かない。


「ジローちゃん」




『大好きだよ。ちゃん。俺はきっと忘れないから、忘れないよ。俺たちたくさん笑ったよね。
 また何度もそうやって笑いたいよ。だからきっとこっちに戻ってきてよ。俺たちを忘れないで』




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☆コメント
ジローをとりあず書こうと思いまして。これになりました。
正直、自分馬鹿だと思う。
行き当たりばったりでプロット無視して一気に書き上げた。
それも思いつきでジロー思い出させようとしたのに、思い出さないほうが面白いかもなんてさ。
どうやって収集つけるつもりなんだ。
自分○| ̄|_
でも意外とうまく書けたから没にしたくない。
これちゃんとうまくまとまるのでしょうか?
只今不安でいっぱいです。

2009.4.19