声を聞かせて
あんな顔させるつもりはなかったのにな。
さっきまで送ってくれた長太郎君の顔がちらちら浮かぶ。
あんなことも言うつもりじゃなかった。
優しくされるのは嬉しい。
でもその優しさは過去の思い出からではないとつい考えてしまうので辛い。
長太郎君が優しくしてくれればしてくれるほど、過去の思い出に囚われて苦しくなってくる。
優しいのが嬉しいのに。
どろどろしたものが溢れてくる。
岸上さんと帰った景吾。
岸上さんのことを心配する宍戸君。
仲間を何よりも大事にしているみんな。
私だけがその輪の中に入れない。
入ったとしても、私はきっとなじめないだろう。
過去の思い出を思い出すたびに。
私の位置はここではないと叫ぶだろう。
時間と時空にもてあそばれて、ただ一人動けないでいる。
どうせなら全ての記憶、私の記憶も消えてしまえばここまで悩む必要なんてなかったのに。
私のここでの存在理由はなんだろう。
「ちゃん」
考えに考えながら家に帰っている途中、清純君の声がした。
驚いて顔をあげると、道の先に清純君が元気に手を振っていた。
遅い時間に現れた清純君に驚きはしたものの、すごく嬉しくて笑ってしまった。
「ずいぶん遅かったんだね。氷帝まで迎えに行けばよかったよ」
「清純君、部活にちゃんと出ないと怒られるよ?」
高校に行ってもテニス部を選んでいるようだけどよくサボっているようなので退部にならないか心配。
「ん〜、だから今日部長からとっつかまってさ、コートに連行されちゃったんだよね。だから遅くなったんだ」
「清純君ちゃんと練習したらまだまだ強くなるんだから、部活まじめに行った方がいいよ」
笑って言う私に、清純君は真面目な顔して覗き込んできた。
「清純君?」
こんな顔している清純君は嫌い。
だって一番嫌なことを言うんだから。
言って欲しくない言葉をくれる。
何でここでそんな言葉を言うのかなぁってことを言うの。
「大丈夫?」
ほら、やっぱり何でここでそんなこと聞くのかな。
大丈夫なんて一番聞きたくない言葉を。
「馬鹿だね。何で泣くまで我慢するんだよ」
清純君の腕が、伸びてくる。
抱きしめられて、自分が泣いていることにやっと気がついた。
両腕をぎゅっと握って、清純君に泣きつく。
「もうやだよ…………。苦しいよ」
小さく呟く私の頭を清純君が優しくなでてくれる。
景吾の傍にいれるのは嬉しい。
でも私じゃない人を見ている景吾は見たくない。
私じゃない人に優しくして、愛を語る景吾は見たくない。
他の人だって一緒。
私に向ける態度にいちいち傷ついて、そして泣き出してしまいそうになる。
そんな自分が一番いや。
分かっていたのに。
きっと苦しいって分かっていてあの場所に戻ったのに。
自分が一番分かってなかった。
理解してなかった。
やけどをしないと分からないなんて子供のようだ。
苦しいのに
それでも傍にいたいなんて思ったりするのはきっと馬鹿だからなのか。
もう嫌だと言いながら、あの場所が恋しいなんてどうかしてる。
ねぇ、どうやったらあの場所から、景吾から卒業できるのだろうか。
誰か教えてよ。
この苦しみから逃れる方法を教えて欲しい。
苦しいのに、それでも私はあの場所へ通い続けるのだろうか。
小さな思い出にすがりついたまま。
何度も何度も傷つきに。
いっそ狂ってしまえば楽になるのに。
それでも私はこの場所に、彼らに会いに行くのだろう。
愛してます。
あなたを。
彼らを。
この世界を。
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☆コメント
何だか書いてる自分が泣きそうになってくる。
2009.2.15